https://www.nature.com/articles/s41598-025-02453-6
地中海を中心にヨーロッパ各地の海岸に棲息するハマトビムシ(Talitrus saltator)は、体が濡れすぎると陸方面に移動し、乾燥すると海方面に移動するのです。その移動軌跡は直線的で方向は海岸線に直角に移動します。つまり最短距離の移動(Orientation)で体の湿度を維持しているのです。イタリアでは、70年以上の研究の歴史があります。同じ時代に西洋ミツバチがNavigationしている研究がなされ、K.vonFrischがノーベル医学生理学賞を受賞されています。ハマトビムシは、その移動に天体(太陽、月)や天空のスペクトル、輝度勾配を利用していることが研究されてきました。
本稿は、ハマトビムシが天空の偏光の勾配に基づいて方向付けできる能力をもつことを発見しました。しかも、ハマトビムシの成体は偏光下でOrientationできるのですが、幼体では、野外で採集された個体と、野外の経験のない実験室で生まれた個体の間で差が生じることが発見されました。つまり、偏光を使ったOrientationに学習が必要だったのです。
この研究推進の中で、山濱由美研究員は、個眼のラブドーム(光受容部位)の偏光受容に関与する重要な構造である微絨毛の形態に注目し、14日齢のハマトビムシでは微絨毛は太く乱れた状態だが、27日齢を超えるとその配列は薄く規則的になることを、電子顕微鏡法などを駆使して発見しました。
これらの結果から、ハマトビムシのOrientation能力は、彼らの微絨毛構造の変化に加え、現場での学習経験によって強化されることが判明したといえます。
この研究は、偏光受容に関する基本的な理解を深めるだけでなく、自然環境における学習の役割に関する新たな知見を世界ではじめて提供したことになります。さらなる研究により、Orientationメカニズムをより詳細に解析し、他の生物のOrientationやNavigation研究にも新たなバイオミメティクス的視点を加えることが期待されます。